広報にほんまつ No.135
2/24

牛削蹄師とは牛が嫌い、だから父の仕事は継がないづめ静まり返った牛舎。いつもは牛の鳴き声が響き渡っているのに、この日はどの牛もおとなしい。そんな中で、2人の削蹄師(牛の蹄ひを切る職人)が黙々と作業を続ける。一言もしゃべらず、ぴったりと息が合った様子で。昨年11月に行われた全国牛削蹄競技大会で、福島県から55年ぶり2人目となる総合優勝を果たした木幡地区に住む武藤稔と貴きさん(27)と、父であり親方の武藤靖や雄おさん(61)。今月号では、あまり知られていない牛削蹄師の仕事を、農業の後継者不足が深刻化している中、父の後を継ぐ決断をした息子と、後継者を育てる父親の様子を交えて紹介します。牛の健康を守る職人〜父から息子へ    受け継がれる技術と思い〜牛削蹄師牛は2本の蹄ひめ(指)で何百キロもの体重を支える動物です。この蹄の形を整える作業のことを削■蹄■と呼び、それを仕事としているのが削蹄師です。牛にとって、蹄は第2の心臓といわれており、歩くたびに蹄が伸縮することで、蹄の血液循環を促進するポンプの役割を果たしています。月に6ミリ程度伸びる蹄は、人間の爪と同じで健康のバロメーターです。削蹄師が蹄の状態を見るだけで、その牛が数カ月前に病気になったことや、餌をあまり食べなかった時期などがすぐに分かります。削蹄により安定した立ち方や歩行を確保することにより、乳牛では乳の出る量が増加したり、肉牛では肥育効率の向上につながったりするなど、畜産農家にとっては無くてはならない存在です。武藤家では以前、80頭余りの牛を肥育していました。きょうだいの中で、子どものころから稔貴さんだけ牛が苦手で、触ったことが無かったといいます。その理由を稔貴さんに聞くと、「怖くて臭いから」だったそうです(笑)。将来、牛に携わる仕事だけは絶対にしたくないと思っていた稔貴さん。高校在学中は野球漬けの毎日でした。卒業が目前に迫り自分の進路を考えた時、自分は何がやりたいのか全く分からなかったと振り返ります。飲食業に興味のあった稔貴さんは、取りあえず日本の南から北上しながら自分のやりたいことを探そうと思い、沖縄県石垣島のレストランのホールの仕事に就きました。しす   ■■づ      し うしさくてい◀写真左が武藤稔貴さん、右が父・靖雄さん。武藤さん親子が牛に近づくと、牛は自ら歩み寄ってきた。牛が2人に慣れ親しんでいる様子が分かる。稔貴さんは4人きょうだいの3番目で長男。父の後を継いで削蹄師になると稔貴さんが決めたとき、自分の代で廃業だと思っていた靖雄さんはびっくりした半面、やはりうれしかったと話す。

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る