原瀬にこぶ山という山がある。
昔 この山に年ふりた白狐が棲んでいて、山道に見せたり、水溜りを風呂と思わせたりして人を騙し、村人や旅人から食糧などをとりあげたり、時には、民家に近寄って来て鶏を盗んだ事もあり、娘に化けて村人を誑らかす事もあって、村人達も、そこで、退治をしようということになり、罠をかけたが、利巧な白狐は罠にはかからないし、鉄砲を用意するとどこかの山深く隠れてしまい、どうしても獲えることができなかった。
そうした或る日、布教のために通りかかった旅僧があった。
白狐の話を聞いて
「仏法によって妖狐を退治せん」
と、とぼとぼと、こぶ山に登っていった。
登っていくうちに、僧は 背筋にぞくぞくとした異様な感じがあったので、あたりを見廻すと、何となく変った松の古木があり、静かな森の中に、この松の木だけが、ゆらりゆらりと動いていたので、
「これだッ」
とばかり、手にしていた独鈷を、松の木目がけて投げつけた。
見事命中して、白狐は正体を現わし、気絶してしまっていた。
僧の介抱のおかげで白狐は蘇生したので、僧は村人に迷惑をかけないように諭して、放ってやった。
白狐は、岳山の方に向かって走り去ったが、その後は、害を及ぼすようなことはなかった。
この僧は弘法大師であったので、この山を弘法山と呼んだが、後には、音がつまって、こぶ山と呼ばれるようになったという。